麗しの彼は、妻に恋をする

「冗談だよ。じゃあ、肩もみでもしてもらおうかな」

「――はい」

すごすごと彼が座っているソファーの背もたれの後ろに立って、肩を揉み始めた。

「お昼ごはん、私が作りましょうか?」

「えっ、君、料理できるの?」

「少しは」

「あ、そう。パンの耳ばっかり齧ってるっていうから、何もできないのかと思ってた」

「たまにはパンの耳以外も食べてますよぉ」

「じゃあ、夕ご飯作ってもらおうかな。お昼は外食して、そのまま買い物しよう。材料がないとね」

「はい。わかりました」

肩から首筋を揉み揉みしていると、ふと背中に赤い筋があることに気づいた。

――あっ。こ、これは。

間違いない。彼にしがみついた時に、私の爪がつけた跡……。
咄嗟に思い出し、羞恥心が込み上げる。

「ん? どうかした」

「い、いえいえ、なにも。凝ってますねぇ」

「うん。このところ忙しくてね」

「出張も多いですもんね。ご苦労さまです」

「ありがと」

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