麗しの彼は、妻に恋をする

***

次の日の夜。

「あー。うー」
暗い部屋で、柚希はちょっと声を出してみた。

ここは祖母の家。

昨日彼の部屋にお泊りして、夕食を済ませて送ってもらったところである。

柚希の生活の基本は、相変わらず益子にある。陶芸家としての暮らしがベースにあることは変わらず、週に一度のペースで愛車の軽トラックをゴトゴトと運転して都内へやってくる。

和葵が契約してくれた月極め駐車場に、軽トラックを止める。新しい軽トラックを買ってくれると言うがそれは断った。新車など緊張して運転できないし、傷も含めて愛おしい愛車トラちゃんを簡単には手放せない。

ベリーヒルズのレジデンス、和葵宅。祖母宅に益子と三重生活になっているが、実際にしてみると思ったほど大変ではなかった。

祖母は無事退院し、今日も昼間はリハビリを兼ねて近所の友達の家に遊びに行っていたらしい。

祖母の足の回復は順調で普通の生活に支障はないが、まだ重たいものは持てない。
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