麗しの彼は、妻に恋をする
夜はホテルのディナーに出かけて、戻ってきてまた襲われて。

時には連れだって買い物に行ったり、観光地に出かけることはあるけれど、大体いつもそんな感じである。

こんなに楽でいいのだろうか。

決められた時に会い、体を重ね、なにかと買ってもらう。

――これは、籍を入れた愛人ってやつ?

好きとか嫌いとかそういうことを考えないで、体の関係だと割り切ればいいだけなのだから、困ることもないし。
それでも別にいいけれど……。

でも、割り切れないなにかが小骨のように引っかかる。

「うーん」

布団の上で大の字になり、パタンと手を伸ばしても当たるものはない。

彼と一緒の時は、気がつくとくっついて寝ているせいか。
――はぁ。

最近、ひとりで寝ることが、寂しくて仕方がない……。



ピロロンとSNSの着信を告げる音が鳴った。

見れば、兄弟子の芳生からだった。

彼は柚希の個展の時に来てくれる予定だったけれど、結局祖母の入院騒動で会えないままだった。

『都内に来ているんだ。明日、食事でもどう?』
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