麗しの彼は、妻に恋をする
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「お久しぶりです」
「あぁ、久しぶり」
芳生は、三十五歳。
高校時代から作陶しているらしいので陶歴は二十年近くと長い。
柚希が本格的に陶芸を始めたのは大学を卒業してからなので、彼と比べたらまだまだヒヨコのようなもの。教えてもらうことばかりである。
自分たちの師匠は高齢だったこともあり、数年前に亡くなっている。以来、芳生は柚希にとって彼は師匠のような存在でもあった。
その若さで、数々の賞を受賞しているし、ファンも多く、百万を超える高額な作品も作品は飛ぶように売れる。
だから、彼は裕福だ。
柚希の食事の心配をして、ご馳走してくれるだけの余裕もあるし、服装なんかもお洒落である。工房にいる時以外は粘土がついた服を着ることはない。
アッシュブラウンに染めた髪は毛先が遊んでいて、白シャツに紺のジャケットという定番の服装ですら、なにやら特別なもののように見える。
この都会で、景色に馴染んでいるのだからすごい。
――デキる人は、何かにつけて卒がないということか。