過保護な君の言うとおり
「もう同居は解消したさ、洸にバレてなんかされちゃ困るからな。
お前の願いは叶ったんだぞ、私が縋り付くような場所になれた。
もうちょっと喜んだらどうだ」
洸は喜べって言われても、できないなあと苦笑いした。佐久間に負けたんだな、俺、と。
「前の玲は野良猫みたいだった。
誰にも懐かないで、人自体に興味がない。
なのに、今はただの飼い猫だ、検査についてきて、なんて言うような甘えたじゃなかった。俺はただ佐久間に嫉妬してたんだ」
甘えたって、そこまで堕落してないだろうと思った。
「そうやって玲は変わったのに、俺といる時は以前のまんま、もう自分が惨めすぎて笑えてくるわ」
「で、飼い猫の私は飼い主のところに返そうって?」
「そう。懐かない飼い猫なんてさっさと元の場所に帰ればいい」
視線をふいっと逸らした洸の横顔は寂しそうに見えた。それを見ながら私は席をたち、
「じゃあ、お言葉に甘えて。さようなら、洸」
と声をかけた。
洸はしっしと猫を追い払うように手をひらひらさせた。その手の隙間から見えたのは、頬を伝う雫だった。
私は洸が泣いたりするとは思わなくて足を止めた。
「何してるんだよ、俺の気が変わらないうちに早く行きな」と言われ私は立ち去る。
人はいつも誰かを傷つけて、傷つけられた人もまた誰かを傷つける。
私はかつて洸に傷つけられたが、私もまた彼の心に傷を残したのだ。被害者はまた加害者になりうる。
つまり、加害者と被害者は紙一重なのだ。
帰り道、私は何故かスッキリした気持ちだった。洸が涙を見せたとき、私と洸にのしかかっていた憑き物が落ちたようだった。
紅く染った空も、冷えた空気も全てが優しく私を包み込んでいる。帰路に着く足取りが軽くなり、明日を急かすように家に帰った。
はやく佐久間に会いたい、ふわりと笑う佐久間の笑顔がみたい。そう思った。