過保護な君の言うとおり
「ねえ、このあと抜け出さない?」
トイレから出ると、茶髪の男がいた。薄寒く口角を上げて微笑み、私をとらえる粘着質な視線に鳥肌が立つ。
まさかこんな下心丸出しのやつに、のこのことついていくとでも思っているのだろうか。
「遠慮しとく」
「は? なんで?」
男は目を丸くした。
「先に帰るわ。他のやつにも言っといてよ」
私はあらかじめ持ってきておいた鞄を肩にかけ直して踵を返した。
男は断られることを予想していなかったとでも言うように、顔を真っ赤に染め上げ拳を握りしめる。
世の中こんな奴ばかりだ。なんでも自分の思うようになると勘違いしている。
もう勘弁して欲しかった。
周りからの評価、イメージ、レッテル、そんなくだらないものにばかり焦点が当てられて肝心なことには見向きもしない。
頭がおかしくなりそうだ。
レストランを出てすぐのことだった。
後ろから腕を掴まれて、ひっくり返るかと思うくらいの強さで引かれた。振り返るとさっきの茶髪の男だった。
「なんだよ、つけてきたのか」
思わず眉を潜めて言った。
「何、まだなんか用」
「お、お前な。俺がわざわざ話振ってやったり気を配ってやったのに、そんな態度とるのかよ!」
息が荒く、こちらまでしんどくなりそうな怒り方で詰め寄ってきた。
「ちょっと可愛いからって、俺に恥かかせんなよ」