過保護な君の言うとおり
佐久間がトースターで2人分の食パンを焼いてくれていた。
キッチンは彼仕様にカスタマイズされ、手馴れた様子で付け合せを用意している。
「秋子さん、いつ帰ってくるんだろう……」
と、つい佐久間のいるのを忘れてふっと湧いた言葉が口をついた。
「やっぱり寂しい?」
あつあつのトーストをお皿に移す佐久間が聞いてくる。
別に佐久間に言った訳ではなかったので、ふいに私の根っこの部分を見られたような恥ずかしい気持ちになった。
「まあ、そうだな。
ゴールがあるから頑張ってたのに、ゴールテープを切った途端に、
突然ここらか先は延長戦に入ります、なんて言われたようなもんだから、多少がっかりしたよ」
私はいつもの場所(ソファーにぐったりともたれかかり)でくつろぎながら答えた。
「でもさ、思ってたより平気なんだ」
「どういう心境の変化だい。玲ちゃんはてっきりこの家に秋子さんが居ないことが相当こたえてると思ってたんだけど」
「お前はよく見てるなあ、見かけによらず」
最後のはひとこと余計だよ、と分かりやすく頬を膨らます。
まるで僕は怒りましたよとでも宣言するみたいな感じだ。
それとは対照的にトーストは私の前にそっと丁寧に置いた。
「まあまあ、そうカリカリするな。秋子さんがいないのはやっぱり寂しいよ……けどな佐久間」
私は一息おいて佐久間が運んできたトーストを見つめ、また向かいに座った佐久間を見る。
「佐久間がこの家にいるから、私は安心して秋子さんの帰りを待てる。
全部、お前のおかげなんだよ、本当に感謝してる」