過保護な君の言うとおり
「やめてくださいっ」
男子生徒が懇願する。
「いやだ、やめない。玲に手を出したのはおまえだろ? そんなの俺が許すと思ったのかよ」
「あ、あなたは宮代さんの彼氏か何かなんですか」
「……うるせえ」
鈍い音が何度も聞こえ、その場を動くことができなかった。
「ゆ、許してくださいっ」
「玲は俺のものだ」
これは、一体だれ?
人が豹変する瞬間を目の当たりにした私は、迂闊にも動揺し後ずさった。
その拍子に不安定に積まれているダンボールが微かに音を立てる。
「……っ」
このままだと見つかってしまう!私は手で口を覆い、息を止める。
「なんの音だ?」
男子生徒を殴りつける手を止め、洸は周囲を見渡した。
どくどくと血液を流す心臓の音。それは空気を揺らすほどの心音で、居場所がバレてしまうのではないかと思うくらいだった。
ただ、息を潜める。
男子生徒の荒い息づかいが、心音が、衣擦れの微かな気配が、生き物のように感じた。
「誰だ。誰かいるのか?」
洸が動きを止めた。こちらに視線を向けている。ダメだ、存在に気付かれた。
間隙から見えたのは、おもちゃを見つけた子供のような無邪気な笑みだった。
「なあに、俺に見つけて欲しいのかな?」
洸は男子生徒から手をはなした、男子生徒は隙をついて教室を飛び出し、洸はそれを追いかけなかった。
興味はとうとうこちらへ向いてしまったようだ。
彼は机と段ボールの山に手を伸ばし、丁寧に慎重にかき分けた。徐々に、それでいて確実に私を逃がさないように……。
そして、ついに目があってしまった。
「やっぱりだ、玲……。なんでここに? もしかしていつも昼寝してるって言ってたのはここのことだったのか」
私は平静を装ったが、
「……今のは、なんだ。なんであの男に暴力を振るうんだ」
言いしれぬ恐怖で声が震えた。
「まさか分からないって言うの? 玲に近づくんだから当たり前だろ、告白なんてもってのほかだ」
洸は続けて、
「あ、そうだ。良いこと思いついた」と言う。
「……いいこと?」
「そうだ、せっかく二人きりなんだ。玲の心が俺に向かないんだったら先に……」