過保護な君の言うとおり
その言葉の先は聞かなくてもわかった。
危険だと頭が警告を鳴らして、目の前にチカチカと光が瞬く。ここに居てはダメだ。
私は地面をつよく蹴った。
一目散にドアを目掛けて走る。ほんの数メートルがやけに長く感じる。
机をなぎ倒し、ダンボールをかき分けて、廊下から漏れる光に向かって、必死に駆けた。
ドアの引手に手をかける。もうすぐ、あと少し。
「……っ」
「どこ行こうっての」
廊下が目と鼻の先にあるというのに、お腹には腕が回され……それは、逃がさないという意思が感じられるほど締めつけてくるのだった。
「残念だね玲」
ああ、最悪だ。もう逃げられない。
「なんで逃げるのさ。……もしかして嫌なの? そんなことないよね? だって俺たちってこういう仲なんだから」
耳元で囁かれる声は悪魔のようだ。
その後なにがあったか、もう思い出したくない。
しばらく気を失って倒れていたようで、目を覚ました時にはもう洸はいなかった。
服は乱れ、ボタンも飛んでいた。
できるだけ服装を整える。呆然としながら「なんでなの」と言葉がこぼれる。
「なんで、私だったの」
悪魔が去った教室でも、私の言葉は誰にも届かない。諦めにも似た気持ちが心に腰を下ろした。
ただ、こんな姿を秋子さんに見られたら心配させてしまう、と泣きたくなる。
身体中が痛かった。
脳裏に秋子さんの顔が掠め、申し訳ないやら、汚い姿を見られたくないという形容しがたい気持ちになって、家には帰れなかった。
その日は家には帰らず友達の家に泊まると嘘をついてネットカフェに泊まった。
ボタンを直し、制服を整えて、やることが無くなれば、ぶわっと溢れてくる涙に溺れ、ひとり声を押し殺してただひたすらに泣いた。