彼が書類を溜める理由
「僕に触れられて嫌じゃないでしょ?」
否定できない。この腕を振りほどけない。
「潘さんはみんなに良い顔して、こうやって誰にでも簡単に触れますよね。私が好きになったら他の女性に嫉妬して苦しいです……」
潘さんに告白されたとき悪い気はしなかった。冗談じゃなかったら良いのにと願った瞬間もあった。でも潘さんのそばにいたらたくさん悩んでしまいそうだ。
「嫉妬ね……」
潘さんはふっと優しく笑うと私の額に口づけた。
「なっ! えっ?」
「はは」
焦る私に笑うともう一度優しく唇を額につけた。
「僕が自分からこうするのは上条さんにだけだよ。」
「え?」
「僕が女性に誰かれ構わず触れると思った? セクハラだからそれ」
「いや、今のこれもセクハラですから! おまけにわざと書類出さないで残業させるなんてパワハラのモラハラだから! 確信犯! 最低!」
「でも僕のことは嫌じゃないよね」
「はい……」
この人のこういうところが嫌い。私のことなんて、何もかも分かっているかのよう。
「上条さんだけを好きだって誓うよ。だから上条さんも僕のものになるって証をちょうだい」
ああ、もう……この人の滅茶苦茶なところに惹かれてしまう自分も大嫌い。
ペースを乱される。冷静になれない。もっともっと、私だけを見てほしいと願ってしまう。
「私、残業嫌いなんです。それと……理解できない言動も大嫌い……」
「でも、ちゃんと間に合わせてくれてありがとう。お給料日には奢りますのでご飯行きませんか?」
「高級レストランでお願いします……」
潘さんは微笑んで顔を寄せたかと思ったら私の唇にキスをする。
「僕とキスできるのは上条さんだけだよ」