君のこと、欲しくない


「ねー、早くしてよ」

わたしを急かしてくるから。もうなんて言っていいかわからなかった、それだけ。


「…っ、わたしは陶山くんの相手になりたくないです!誘って来ないで!」

いつもわたし、こんなに大きな声出さないのに。こうもしないと無気力な彼には伝わらないと思った。


「…あ、えっと、じゃあ、またあした」

一応クラスメイトだから、

またあしたなんて言葉使わなくてもいいのかとも思ったけど。


靴を履きかえて、早く学校から出たかった。


「…へえ、仁宮(にみや)さんっていうの」

そう言ってきた彼。
わたしの名前やっぱり知らなかったんだ。

多分、下駄箱に書いてある名前を見たんだと思う。


「っそう、ですけど…」

あーあ、返さなくてもよかったかもしれない。いや、返さないほうがよかった。


「下の名前は?」

「…妃夏(ひな)」

妃夏。自分では気に入ってるんだこの名前。


「…あんたが妃夏ちゃん?」

なにか含んでいるような声、確かめるようにわたしに聞いた。


「…はぁ、」

そんなこと言われてもわたしが妃夏ちゃんでしかなくて、なんて言ったらいいの。


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