北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 ふかふかの往復びんたを受けて、凛乃は回転座椅子の背もたれに沿って丸まっていた背を起こした。
「わたしが累さんのことめちゃめちゃ好きだってわかってるくせにぃぃ」
 抗議した凛乃の視界に、障子戸からはみ出した累の顔半分が飛び込んできた。
 凛乃が硬直する間に、累がゆっくりと身体まで現す。はずみで、ラウンド型の洗濯カゴがころころと縁側を転がった。
 凛乃は素早く縁側にすり寄ると、四つん這いでリビングに入ってこようとする累の目の前で障子戸を、すいーっぱしん、と閉めた。
 楽し気にしっぽを振り回すつるにこの横を、よろめきながら駆け抜ける。
 累がいまの独白を聞いていたのは、疑いの余地がない。
 洗濯物を干し終わったら眠くなって縁側の壁に寄りかかってうたた寝していた、というところだろう。
 気配なさすぎ!
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