北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 振り終えると、累が右肩越しに赤い顔をのぞきこんでくる。
 いいかげん冷えすぎた額を冷蔵庫から離して、凛乃は呻いた。
「失敗した」
「なにを?」
「わたしが待ちかまえてると思ったら、もうしぜんに、ん? って聞き返してくれにくくなるでしょ」
「そうかもしれないけど」
 累がちょっと考えこむように間をおいて、
「おれが聞き返したとき甘くなってるとしたら、それはおれを呼ぶときの凛乃の言いかたが甘いからだと思うよ」
 声音には、わずかにからかうような響きが混じっていた。
 くやしいけど、それが真実。
 凛乃は開き直るように両手から顔を上げた。
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