北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「累さん?」
 咎めるように呼びかけて、累をかるく睨む。
「ん?」
 いつもの言いかたで、いつもより笑み増し増しで、累が応える。
 それだけでもう降参だ。
 たぶん、急かすような表情をしてしまったのだろう。
 うしろからやわらかく抱きすくめられ、キスはすぐに深くなった。まともな反論なんて発することもできない。
 そのかわり口唇と舌が、言えないことまで語りだす。
 身体の芯が熱い。
 ボートネックから累の手がすべりこんで、鎖骨をなぞる。
 でもそこからは狭くて、指を伸ばしても奥へ届かない。
 じれったさを残してトレーナーの裾から改めて侵入した手に声が漏れて、口唇が離れた。
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