北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「くすぐっ……たい」
「髪、切るだけかと思ってた。くるくる、似合う」
「アレンジ、しやすいように、ハーフアップ、とか、してもらう、かも」
「もしかして来週のため?」
「和装に、合う、ように」
 累がいつもより多弁になっている。
 さっきのは“会話しようよ”って意味じゃないんだけどー!
 つい応じてしまう自分を棚に上げて、心でツッこんだ。
「凛乃のときも、着る?」
 甘噛みされる耳やなでられる脚やつつかれる胸に気が散って、とっさに返事が絞れなかった。
 わたしのとき、って? も、って?
 成人式、は有り得ない。和服を着るタイミング? 結婚式、ってこと?
「これ、ほどけるやつだ」
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