北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 布越しに触れるのをやめてそれを下ろそうとしていた累が、骨盤のあたりの結び目にたどりついて指の形を改めた。
 ずり落ちないように固く固くリボン結びにしていたはずが、くいっとひっぱられただけで簡単にほどける。
 そのまま落ちなかったのは、油断すると立っていられなくなりそうで両脚をみっちりと閉じていたからだ。
 でもすぐにもう片方のリボンもほどかれて、ただ股に布を挟んでいるだけになった。
 隙間を押し広げるようにもぐってくる指に抵抗しようとすると、逆に身体がびくんと弾ける。背後に密着している累に、そのたびに腰を打ちつけるような格好になってしまう。
「落ちちゃう、よ」
「取るよ」
 脚のあいだから抜き出したあと、床に放り出したのかポケットにでもつっこんだのか行方を追う余裕もなく、わずかなインターバルに凛乃は大きく息を吸う。
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