北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「来た、けど……、ごめん」
 累は凛乃の形相を見て、まずあやまった。
「ちょっとぼーっとしててびっくりしただけです。すみません」
「疲れた?」
「いえ、どこにどれを置こうかなーって」
 凛乃は思い出したように、トランクルームに残る荷物リストに目を落とした。累が背後からその手元をのぞきこむ。
「この部屋、収納がないから」
 メモ用紙をなぞる累の指に見とれて、凛乃の気が散っていく。
 累に宣言した通り、家政婦であるうちは、そうふるまうことが最優先だ。主が最愛のペットと戯れている時こそ、仕事の時間。
 だけど、そばにいるときは。
「累さん」
「ん?」
 腕の中でくるりと身をひるがえして、その胸に抱きついた。不意打ちだったのに、累はしっかり受け止めてくれた。
< 11 / 317 >

この作品をシェア

pagetop