北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「へへへ」
はにかむ凛乃が、累のネクタイを直す。
「累さんも似合ってる」
スーツを着るたびにそう言ってくれる凛乃には悪いけど、じつは着物姿をそれほどじっくり見てはいない。
遠目に見たときの印象と、うれしそうな顔を含む上半身を間近で眺めているだけで、もう満ち足りた。
柄がどうとか、色がどうとか、意味はない。畳まれた状態と写真でしか見たことのない母親の着物が、凛乃の身体を覆うことで鮮やかに息づいて見える。
「写真、撮っておこうか」
「どうせなら、ふたりいっしょがいいな。だれかに……」
スマートフォンを取り出そうとすると、凛乃がきょろきょろとあたりを見回した。
「あ」
はにかむ凛乃が、累のネクタイを直す。
「累さんも似合ってる」
スーツを着るたびにそう言ってくれる凛乃には悪いけど、じつは着物姿をそれほどじっくり見てはいない。
遠目に見たときの印象と、うれしそうな顔を含む上半身を間近で眺めているだけで、もう満ち足りた。
柄がどうとか、色がどうとか、意味はない。畳まれた状態と写真でしか見たことのない母親の着物が、凛乃の身体を覆うことで鮮やかに息づいて見える。
「写真、撮っておこうか」
「どうせなら、ふたりいっしょがいいな。だれかに……」
スマートフォンを取り出そうとすると、凛乃がきょろきょろとあたりを見回した。
「あ」