北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「ほかの部屋ではつるにこに独占されるから、いまのうちに」
 言い訳すると、ふ、と笑った振動が伝わる。
「遠慮しなくていいのに」
「だって、引っかかれるから」
「子猫だからまだ爪がひっこめられないんだよ」
「いーや、あれは狙ってやってます。わたしが累さんに近づくと跳んできますもん」
「言い聞かせておく」
「いいんです。相手は子猫だし、大きくなっても猫だし、累さんとの仲を裂こうってことじゃないし。でもわたしとも、こういう時間をぜったい確保してください。でないと出ていきますから」
 累が腕に力をこめた。一瞬、息が止まりそうなほどの強さで。
「約束する」
 いきなり切り札を出したことに罪悪感も沸いたけど、累の熱がこもった声に安心した。
 累は凛乃の背中をゆっくり何度も撫でおろす。
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