北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 待ちきれないならいっそ、自分から言っちゃおうか。
 気持ちのうえでは、もうプロポーズ済み・許諾済みに等しい。累の決意を尊重して、だれに訊かれても披露できるようなことばを待っているだけだ。
 凛乃は累が夜食に摘まんだらしいチーズの包み紙をひとまとめに握りつぶし、ゴミ箱に押しこんだ。
 そのときふわりと漂った生々しい匂いに、顔をしかめる。
 ちょっと階段を上がればわたしがいるのに、自分で。
 コタツより引力がないのかと思うと、地味に心がささくれる。
「コタツ亀め」
 寝顔に向かって、毒づいた。
 累は温かさを最大限に享受しながら寝るために、長方形のコタツの対角線上に身体をもぐらせている。
 それでも手足がちょこっとはみ出ているところが、ひっくりかえった亀みたいだ。
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