北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 クリスマスは再来週だ。思ってもみなかったベタなシチュエーションにも、愛おしさがあふれる。いまはゆるく閉じている口唇からどんな言葉が出てくるのか、考えただけで胸が鳴る。
 結婚したい。結婚すれば安心や安定が手に入ると思っていたころとはちがう気持ちで、いまはそう言える。
 満ち足りているからこそ、“目的”じゃなくて“手段”として、する。気持ちは固まっている。
「楽しみ……」
 凛乃は累の上に屈みこんで、ちょっと長めにキスを落とした。
 ゆっくり離れると、累の目ものっそりと開いた。
「……おはよう」
「おはよ」
 さっき見たことを漏らしそうになるから、凛乃はあえてちょっと怒ったフリをした。
「コタツで寝るの禁止。風邪ひくし、さみしいから」
「ん」
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