北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「……じゃあ、壁ぶち抜けば?」
「へ?」
 あっけにとられて、凛乃は壁を指さす累を見上げた。
「図面見ないと断定はできないけど、たぶん最低でもドアひとつぶんは開けられる。そしたら大きいひとつの部屋の寝室スペースとして納戸で寝起きできる」
「ちょ、ちょっと待ってください。わたしのワガママでひとさまのおうちの壁を壊したりできませんよ!」
 思わず累を押し返した手が、そっと掴まれた。
「人様の家じゃなかったらいい?」
「ええ?」
「名義を変えればいい」
 ハチミツ色の瞳をのぞきこんで、凛乃はごくりと息を飲んだ。
「本気だったんですね」
「嘘だと思ってた?」
「ウソっていうより、いまはじめて現実の話なんだなって感じて」
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