北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「あ、ちがうの」
 累の指がパジャマの胸ポケットから抜き出そうとするアレを、あわてて押し戻す。
「まちがえて入れちゃった」
「まちがえた?」
「えっとね」
 ポケットから出したり戻したりの攻防でこすれる胸を、手で押さえる。その指のあいだから累の指が中を漁って、「んっ」いかがわしい声が出て手がゆるんでしまった。
 取り出したアレをしげしげと眺める累から顔を逸らして、凛乃は口を尖らせた。
「ちょっとした出来心」
 累はアレを胸ポケットに戻すと、凛乃の手を取ってコタツ布団の中へ導いた。
「待っててくれたんなら、行けばよかった」
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