北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「それか、結婚するか」
「け」
 飛躍に次ぐ飛躍に、凛乃は金魚みたいにぱくぱくと酸素を求めた。
「たぶん税金とか手続きも、そのほうがスムーズだよ。お互いに欲しいものを確保できて、正当で真っ当」
 照れたり赤くなったり浮ついたりしていない累が、ビジネスライクに映った。
 ふと、かつての自分を思い出す。
 結婚という箱に入れば、安泰だと信じていた。好きな人と飛び込めば、箱は頑丈で大きくなっていくと疑わなかった。
「わたしは、安心できる家が欲しいんです。建物のことでもあるし、心のよりどころって意味でもあるし、そこには大事なひともいてほしい。この家は好きだし、欲しいかって聞かれたらすごく欲しいけど、等価交換じゃないとおかしいです。でもわたしから累さんにあげられるものが、なんにも思い浮かばないんです」
「凛乃がくれられるものはあるよ」
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