北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 まずはドアの向こうにいるかもしれない相手にぶつけないように、少しだけ開けて覗いてみた。
 その音だけで、階段を下りようとしていた凛乃の腕のなかから、つるにこが飛び出す。
「にぁあぁぁ」
 駆け寄ってくるつるにこを追って、凛乃も廊下を折り返してきた。
「もうっ、今日はなんだか粘っちゃって」
「帰ってから遊ぶ時間なかったから、足りなかったんだよな」
 ドアを全開にして、足にまとわりついてくるつるにこを抱き上げる。
「でも累さん、仕事中でしょ」
「え?」
 凛乃のしかめ面を見上げる。
「ご、父親と話すって言わなかったっけ」
「そうなの?」
 眉間のしわが、ふっとほどけた。
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