北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「何ですか?」
「凛乃」
 手首をつかんでいた累が、指をからめてくる。凛乃はからめ返して、まっすぐ累を見た。
「ぜんぶはあげられないけど、あげます」
「あげられないものって、なに?」
「すぐには思い浮かばないけど、きっとある。でも、あげてもしょうがないものだとは思います。ホクロとか」
 累は、ほっとしたように相好を崩して、凛乃の肩に額をあずけた。
「ありがとう」
「でも、いまはハイって言いませんよ」
「どういう意味?」
 一度は浮き上がった累の声が、不安げに下降する。
「だってこの流れで受けたら、家欲しさに結婚することになるじゃないですか。ちがうんですよ。わたしは累さんが好きだから結婚するんです。これから箱を作っていくんです」
「箱?」
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