北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「子供っぽいのはあっちのほう。どんどんハチャメチャになってく。あんなのだから、ずっと向こうで暮らせるんだろうけど」
「累さんにはないノリだよね」
「大学の4年間で思い知った。おれはフランスに合わない」
「でも笑顔そっくりだよね」
 きょとん、とした顔をしていると、自分でもわかった。
 凛乃が、やわらかく頬をほころばせた。
「自分の顔は見えないから知らなかったかもだけど、相手の話をよく聴こうとしてるときの口元と目元のやさしいゆるい感じ、すごく似てる」
 予想外の指摘に、返す言葉が浮かんでこない。
 夏休みに渡仏した折や留学中、言造の知人・友人に紹介されるとき、だれも親子であることに違和感を示さなかった。アジア人の区別がつかないとか、日本よりステップファミリーが一般的だからだと思っていた。
< 166 / 317 >

この作品をシェア

pagetop