北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
-Happy New We are-
 小ぶりのキャリーケースを引きずり、凛乃が母親のあとについて入ったのは、駅前のホテルにある展望レストランだった。
 大晦日をあくる日に控えた午後だ。帰省客も多くて混んでいると踏んだのに、母親は「予約していた維盛です」と言ってすんなり中へ通されていた。
 うっすら漂うコーヒーの薫りに、意識が遠くへ飛ぶ。
 累さん、ちゃんと夕飯食べてくれるかな。
 凛乃はあくびを手で隠して母親についていきながら、つい数時間前に行ってきますのキスを交わした人を想う。
 たった3日ほどの帰省だというのに、どうにも離れがたくて、明け方まで服を着る時間も惜しんだ。身体はだるいし、車内の仮眠だけじゃ、ちっとも足りない。
 早く帰ってちょっと寝たいんだけど。
 改札で出迎えるなり「ケーキでも食べよ」と言い出した母親の背中に、凛乃はぼんやりと念を送った。
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