北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「田淵さんと、息子さんの忠さん。娘の凛乃です。ほら」
 脇腹に肘鉄されて、凛乃は反射的に会釈する。
 顔を上げると、斜め向かいに座る忠青年と目が合った。でもそれも一瞬で、不躾に凛乃の輪郭をたどった視線はわずかに逸らされた。
 値踏みされている。
 ぞわっと悪寒が走った。
 おなじ無表情でも、累との初対面のときとはまったくちがう。
 累は自分が視線を投げかけることを遠慮していたし、凛乃の情報を盗み見しようともしなかった。
 すっかり目が覚めて、凛乃は横の母親を睨んだ。
「愛想のない娘ですみません。都会で働いてると、なんだかツンケンしちゃうんですかね。こんなんだからいまだにひとりぷらぷらして、お恥ずかしい」
「あら、いまどきの女の人は、しっかり働かれるから。こっちには仕事もあんまりないでしょ。おひとりでよくやっていらっしゃるわよ」
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