北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「でも結婚したらパートでいいんよ。子供産んだら、子育てがあるんだから。家のなかをおろそかにできないでしょ」
 調子よく好き勝手を言う母親のまえに、お冷が運ばれてくる。
 ケーキはどうした? ケーキ食べたいんじゃなかったの?
 凛乃は目のまえに置かれたお冷から目を上げた。
「これって、お見合いってこと?」
 保護者同士の会話が、ぴたりと止まった。
「そんなかしこまったことじゃないんよ。たまたま帰省してらっしゃるって聞いたから、ちょっとお話してみたらどうかなって」
「お見合いでしょうよ」
 言い訳を封じられた母親の口元が、ひきつった。
 これまでなら、ここで停戦だった。
 対峙するのを避けて場を脱走するか、不機嫌さを盾に反撃を封じる。
 でもふつふつと湧き上がる怒りは、初めてタガが外れた。
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