北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 母親も相手親子そっちのけで、身体を向けてくる。
「これから言うところだったんだよ」
「ほんとかぁ? つきあってるだけじゃ当てになんないよ。あんたその齢で、あとがないよ」
「約束はあるよ」
「じゃあ連れてきな。今日連れてこなかったら信じない」
「今日?! あっちの都合もあるのに勝手なこと言わんで」
「恥をかかされたんだから、お母さん今日じゃないと納得しない」
「恥かいたのは自分のせいじゃん。知らんわ」
 母親は聞く耳もないといった態度で、背を向けてしまった。
 これ以上言い争っても、店に迷惑だ。
 わずかに残した理性でそう判断すると、凛乃はキャリーケースに手をついて立ち上がった。
「お騒がせしてすみませんでした」
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