北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 駅の駐車場には、姉が待っていた。まだふてくされている母親の代わりに、送迎を担当してくれる。
 紹介とあいさつを済ませると、姉は笑いがこぼれる口元を隠しながら言った。
「急にすみませんねぇ」
 どこかで聞いた言葉だけど、こっちは心持ちがまったく違う。
「父はともかく、母はちょっと小うるさいと思いますけど、心底反対してるわけじゃないんで、気楽にしてください」
「はい」
 うなずいたものの、累の表情はいつも以上に固く見える。
「姉ちゃん、ちょっと楽しんでるやろ」
「わたしのときもブツクサ言われたもん。またやってんのなって思ってー」
 姉の軽自動車に乗り込み、一路実家へ向かうおよそ30分。久しぶりに会った姉に、後部座席から前のめりで不平をもらす。
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