北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「誰かいいひとおらんのかってうるさくしといてさ、いざ連れてくるって言うとケンカ腰ってどうなん」
「見合い相手を気に入ってたんじゃない? 模様替えしたいなーって言ったら、お義母さん手伝いますって飛んでくるようなひとがいいんだって」
「なにそれ、自分のための労働力が欲しいだけやん。しかもあのひとぜんぜんそんな感じじゃなかったよ?」
「そうなんだー。まぁ求めるだけムダだよね」
「オトンだって家のことなんもしないのに」
「だからこそ真逆を求めたくなるんやない?」
 かくいう姉の伴侶も、春風にそよぐ柳のようなタイプだ。力仕事はもちろん、あまり妻の実家に関わろうとしない。
「累さん、オカンの都合なんか気にしなくていいからね」
 となりにむかって話を振ると、初めての街を眺めていた累は「うん」と小さくうなずいた。
 それきりなんとなく、車内が静かになる。
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