北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「式は8月くらいの予定です」
「それはぜひ祝電を」
「いえ、お気持ちだけで。内内の小さなものですから」
反射的に壁を作ったのは、怖じ気づいたせいかもしれない。
相手に与えるインパクトの強さから“妻”という単語を選んだけれど、口に出したことで、ふたりと1匹で完結していた生活が一気に外に通じた。それはお互いの親を巻きこんだ以上に、ある種の公共性を持っている。
「ウソだ~」
割り込んできた中森嬢の目が、笑っていなかった。
「ウソってなんだ中森」
「だって指輪してないじゃないですか」
3人の視線が、累の飾るもののない左手に集まった。
そういえば一度だけ凛乃に提案して保留にされて以来、いまのいままで忘れていた。
「それはぜひ祝電を」
「いえ、お気持ちだけで。内内の小さなものですから」
反射的に壁を作ったのは、怖じ気づいたせいかもしれない。
相手に与えるインパクトの強さから“妻”という単語を選んだけれど、口に出したことで、ふたりと1匹で完結していた生活が一気に外に通じた。それはお互いの親を巻きこんだ以上に、ある種の公共性を持っている。
「ウソだ~」
割り込んできた中森嬢の目が、笑っていなかった。
「ウソってなんだ中森」
「だって指輪してないじゃないですか」
3人の視線が、累の飾るもののない左手に集まった。
そういえば一度だけ凛乃に提案して保留にされて以来、いまのいままで忘れていた。