北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
挙式と披露宴が別物であることを、佐佑の結婚を機にようやく知ったくらいだ。結婚までの過程のどこに指輪が湧いてくるのか、具体的に考えてなかった。
「これから買います」
「え~順番おかしい」
「今日、帰りに待ち合わせて行くんです」
それはあながち可能性がなくはない。
来週空けからの仕事を前にバーゲンでもう一狩りしている凛乃と、このあとこのビルの1階ロビーで落ち合う予定だ。そんなゴールを用意しておかなければ、営業活動なんて思っても実行できはしなかった。
「順番なんて、ひとそれぞれだろ。失礼しました。これから待ち合わせなら、お引き止めしてる場合じゃないですね」
老編集者がそう言って切り上げてくれたから、累は彼とともにソファから腰を上げた。
座ったままの中森嬢からは、「信じない」というつぶやきが聞こえる。
累は、意地でも今日、指輪を買うことに決めた。忘れないうちに。
「これから買います」
「え~順番おかしい」
「今日、帰りに待ち合わせて行くんです」
それはあながち可能性がなくはない。
来週空けからの仕事を前にバーゲンでもう一狩りしている凛乃と、このあとこのビルの1階ロビーで落ち合う予定だ。そんなゴールを用意しておかなければ、営業活動なんて思っても実行できはしなかった。
「順番なんて、ひとそれぞれだろ。失礼しました。これから待ち合わせなら、お引き止めしてる場合じゃないですね」
老編集者がそう言って切り上げてくれたから、累は彼とともにソファから腰を上げた。
座ったままの中森嬢からは、「信じない」というつぶやきが聞こえる。
累は、意地でも今日、指輪を買うことに決めた。忘れないうちに。