北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「頭突き、とか?」
 累がかたむけてきた頭に、こちらも猫が好きな相手にするように、ごりごりと頭をすりつける。
「このほうが恥ずかしいよ」
「そうかな」
「ふふっ」
 凛乃は買い物の袋を腕に通して、自分と累のわしゃわしゃの前髪を直した。
 もっともっと、ふたりきりでいたい。つるにこには悪いけど。
「ねぇ、もう少し歩こ? 疲れたらタクシーに乗って」
 提案した凛乃の頬を、雨粒がぽつりとつつく。
「えー」
 天を仰いで嘆くと、累がすぐさま累がコートのまえを開いて匿ってくれた。
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