北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「累さんの服が濡れちゃう」
「服より自分の心配して。もっとくっついて」
そのまま歩きだしたけれど、のんびり散歩という気分はさっそく挫けてしまった。
 雨脚に激しさはまだないから、もうタクシーに乗ってしまうのも惜しい。
「まだ帰りたくないのに」
 駄々をこねると、累が左斜め上に目をやった。最良の答えを模索するときのクセだ。
道の端に凛乃を導いて、耳元に口を寄せる。
「帰るの少し遅くなってもいい?」
「遅いってどれくらい?」
「うん、まぁ、泊まりはしないつもり」
 ん? ん? ん? 
 気になる単語に引っかかっているうちに、累は煌々とネオン輝く裏道へ凛乃を導いていった。

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