北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 かちゃかちゃとベルトをはずす音までも、累のしなやかな指みたいに身体に触れてくる。
 凛乃は開かれていく心と身体の感覚に任せて、累を受け容れた。
「ウォッシャブルで形状記憶、なんだっけ?」
「え?」
「コートで隠れるね」
 身をよじると、肌のほかに触れる生地感がある。こんなに密着しているくせに、ふたりの身体はまだ多くの布をまとっている。
 累のくすくす笑う声が降った。
「目をつぶってたら見えなくない?」
 そうだった。
 触れられている場所に感覚を集中させるあまり、目を閉じてしまっていた。
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