北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
-晴れの日-
 ひとりきりの控室に、式場スタッフが入ってきた。
「お間違いないか、ご確認ください」
 半着の袂を取りながらそれを受け取る。
 布張りの見開きホルダーに挟んで差し出されたのは、ゆうべふたりで書いた婚姻届だ。
 保証人の欄もすでに両方の父親に書いてもらった。空白があるのは、各々の名前の欄だけ。
「はい。まちがいないです」
 きびきびと書かれた凛乃の字に、落ち着かなかった心がほっとする。
「お母さまのお着替えは、あと5分ほどで終わられそうです。ご列席の皆様が全員式場に入られましたら、お迎えにあがりますので、ご新郎様ご入場となります。こちらは、ご新婦様のご入場をお待ちのあいだに高砂席の前にお運びいたします」
 列席者のまえで婚姻届を仕上げるまでの流れを再確認して、スタッフが部屋を出ていった。
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