北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 反論満載だけど黙っておく。
 額を見せるヘアセットと着られている気しかしない紋付袴を意識しないようにしているのに、これ以上いじられたくない。
 ドア口から、パンツスーツの妙子が顔を出した。
「累くん、おめでとう」
「ありがとう」
「ほら、美陽も、オヂチャンオメデトーって」
 妙子に抱かれたドレス姿の乳児が、むすっとした顔に警戒心をにじませてこっちを見つめている。何度か会っているにもかかわらず、慣れてはいないらしい。
 それでも美陽は妙子に促されて、覚えたてのたどたどしいバイバイを披露した。
「かぁわいいねぇ、何カ月?」
 言造が、甘々しくまなじりを下げる。
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