北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「8カ月です」
「そうかぁ。累もちっちゃいときは、ずいぶんフクフクしてかわいかったなぁ」
 遠い目をした言造にシンクロして、佐佑も腕を組んでうんうんうなずく。
「女の子にもよく間違えられてましたよね。いまではこんな細マッチョみたいになっちゃって」
「そうなんだよ瀬戸くん、時って残酷だよね」
「でもオレ、ついにこの日が迎えられて心底うれしいです。なんだったら自分のときより」
 言いかけた佐佑の声が震える。言造の目も、みるみる潤みだす。
「瀬戸くん、そんなに累のことを……ありがとう!」
「お父さん!」
 ふたりがひし! と抱き合う。
「なんなの……」
 呆れる累に対して、妙子はそれを豪快に笑い飛ばした。
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