北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 凛乃は逃げ腰で言い訳する。
「無視したかったのに、あっちが言いがかりつけてきたから」
「安心したんだと思う。よかった、って言ってた」
「あれは、養わなくて済んで“よかった”、です。わたしが隙あらばすがっていくとでも思ってたんじゃないですか。自惚れるにもほどがあるし」
 吐き捨ててやりたいのを自嘲の笑いでくるんだ。
 いがみ合うような終わりだったことより、それを累に知られたことこそが消したい過去だ。
「そうかな」
「そうですよ」
「左手の薬指に指輪してた」
「えっ」
 思わず立ち止まった。
 記憶を手繰るように遠くを見ていた累が、凛乃に目を移す。
「なんだ、そういうこと……」
 力が抜けたのに、全身が重かった。
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