北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 トイレから出てきた凛乃の顔に、すべて書いてある。
 まちがいない。
「見せて」
 妊娠検査薬と取扱説明書とを見比べた。小さな窓に、見本通りの赤い線が浮き出ている。
「やだ、顔近づけすぎ」
 恥ずかしがる凛乃に検査薬を取り上げられた累は、脱力したようにそこにひざまずいた。
「いるんだ、ここに」
 目のまえに迫る凛乃のおなかを撫でてみる。
「実感ないけどね」
 凛乃のこぼす笑いが頭のうえに落ちた。
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