北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「身体あっためるようにしたおかげかなぁ。なにが効いたのかな」
 声にうれしさが滲んでいる気がする。
 いつ妊娠してもおかしくないと思いながら、結婚してからもその兆候はないままだった。
 それでも、凛乃が婦人科系のちょっとした不調に気を配り始めたくらいで、できるできないを突き詰めることはなかった。
 累にとってそれは、どんなカタチであれいつか自分たちがこどもを持つことを、常に意識していたという裏返しでもあった。
 折しも、つるにこのおなかが大きくなり始めたことに気づいて、幼いころの記憶を掘りおこしながら準備を進めていたところだ。
 累は凛乃の腰に腕をまわして、おなかに顔をうずめた。
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