北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「大きくなったら色味が変わったりしないかな?」
「猫とはちがうの」
「サスケは、凛乃にも似てるって。男は母親に似るって言うしって」
 反論するように累がもごもごつぶやくのを見て、凛乃は苦笑する。
 いまだに美陽に懐いてもらえない累が、産まれてくると思っていた娘への接し方に苦悩し、決死の覚悟を固めていたのを思うと、肩透かしを食らってうろたえるのもムリないかもしれない。
 でも凛乃は、心配はしていなかった。累はきっと、この子を幸せにする努力を惜しまない。
 息子が、ぎこちなく身体を動かし始めた。ふたりで覗きこんでいるうちに、ほえほえと泣きだす。
 すぐに手を伸ばした累の抱きかたには、ぜったいに落としたりするものか、という気概を感じた。
「おなか空いたかな」
 凛乃は返事の代わりに、産着をぺらりとめくった。
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