北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「ホテルに帰らないの?」
「凛乃がごはん食べるときとか寝たいとき、近くにいないと交代できない」
 言い置いて、累が病室を出ていく。
 その背中が、つるにこ母子をかいがいしく世話していたそれに、ぴたりと重なる。
 凛乃は頬をゆるませて、それを見送った。
 はしゃぐことも浮足立つこともないし、表情が柔らかくなったとか口数が多くなったとかもない。
 でも息子に関わりたくてしょうがないとしか思えない行動のひとつひとつが、自分に向けられる愛情以上に愛おしい。
 深呼吸で感謝を胸いっぱいに拡げて、凛乃はベッドに横になった。
 なんて名前がいいかな。イチから考え直しだ。
 つるにこが産んだ娘たちのうち、里子に出さず残した1匹の三毛猫に、“つるみこ”と名付けた累をどうやって導くか、凛乃は真剣に考え始めた。
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