北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「へぇ……」
 自分は、産まれた子が男だと聞いて驚いてしまった身だ。凛乃の慎重さや言造の賢明さに、少し卑屈になってしまう。
「あーぁ、おれもなんか買ってあげたいぜぇ。でも赤んぼの服なんてすぐ着れなくなっちゃうし、いま自分で見て選んだのをあげたいのに船便も航空便もわずらわしいし」
 大きな声で繰り出される独り言に、「祝い金を振り込んでくれただけで充分」と返そうとして、やめた。
 服なんて前は興味なかったけれど、たしかにいま、こども服には目が行くようになった。
 さっき部屋に置かれていた子供服の通販雑誌をパラパラめくったら、産着というより着ぐるみみたいな服がたくさん載っていた。
 近いうちに、そのどれかを買ってしまう予感がしている。気持ちはわかる。
「好きにしたらいいよ」
 許可をだすと、言造は「よっしゃ」と拳を突き上げた。
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