北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「保育園行くようになって、”どうぞ”よくするようになったよね」
「うん。いろいろ覚えてきて面白い。保育園、はいれてよかったね。累さんがワンオペ育児在宅ワークにならなくて」
「いや、なんかいま休憩してても手持ち無沙汰で。トレーニングに励んでしまう」
「だからこんなおなかなのね。憎い~」
 凛乃がシックスパックをぺちんと叩いてくる。
 しかえしに触ろうとした累の手をよけて、凛乃は震えるスマートフォンをつかんだ。
「お義父さんから、返事来た」
 海についた時点で送った彪吾の写真に対して、ハートマークだらけの返信が来ている。
 早朝からデレついているであろう父の顔を思い浮かべたことで、こちらの時間を意識した。
 クラッカーを食べ終わった彪吾の手と口を拭いて、累は声をひそめた。
「そろそろ帰ろうか?」
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