北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「もっかい」
 真似をして何本も指を立てながら、彪吾が応じる。
「よし。もう1回遊んだら、水のシャワーだよ」
「しゃー」
「それじゃあ、うしろ向いて」
 彪吾の日焼け止めを塗り直しながら、凛乃に背中と肩へ日焼け止めを塗ってもらう。
「よかったね彪吾、パパにありがとうのチュウー」
 凛乃がなにげなくかけた言葉を聞き流し、片腕に彪吾、もう片方に浮き輪を抱いて、累は日差しの中に立ち上がった。
 小さな手が、累の両頬を挟んで自分のほうへふりむかせる。
 ぷちゅっ。
 累の口唇を奪った彪吾は、にっこにこのドヤ顔を見せた。
「あ……ありがとう」
 累は思わず礼を述べてしまった。
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