北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 声に張りがある。
 凛乃の就職活動に初めて、空元気や虚勢じゃない、伸びやかな意欲を感じた。
「楽しそう」
「そうですね、なんだか急に、どうしたいか、に導かれていく気がするんです。わたしに足りなかったのはこの強さなのかなって。動機は多少不純でも、やりたいっていうのは本気だから」
 手元がおろそかになったせいか、つるにこはネズミに興味を失ってどこかへ歩き出した。累はコントローラを、こたつテーブルにそっと横たえた。
 外を向いている凛乃を見ると、いまだに少し、落ち着かなくなる。
 手を伸ばせば触れられるかもしれないと期待したのは、凛乃が閉じていた魔境の国に入ってきてくれたからだ。
 あの部屋にはもう、片づけるべきものがほとんど残っていない。もっといい“仕事”を見つけたら、ここを離れてしまうかもしれない。
「お待たせしました」
 ハッと顔をあげると、凛乃の笑顔が目の前にあった。
< 33 / 317 >

この作品をシェア

pagetop